【第2783例会】ロータリー財団について 勝坂会員(2022年11月10日例会)

会長時間

『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク
 『朗読者』は1995年にドイツで出版され、5年後には20か国以上で翻訳され、全世界で500万部を超えるミリオンセラーになりました。また、2008年には映画化され、主人公ハンナを演じたケイト・ウィンスレットはアカデミー最優秀主演女優賞を受賞しています。(映画邦題『愛を読む人』)
 ストーリーは、15歳のミヒャエルは36歳のハンナと知り合い、毎日のように学校帰りに彼女のアパートに寄り体を重ねるようになります。そして、いつもハンナから本を朗読して欲しいと求められます。そこには彼女の深い秘密が隠されていたのです。そして、ある日突然ハンナは姿を消します。
 数年後、法科大学生になったミヒャエルは、ナチス時代の強制収容所にまつわる裁判の法廷で、被告人として立っている元収容所看守のハンナと再会します。実際に西ドイツでは、1960年代にアウシュビッツ裁判が開かれ、かつての収容所の看守等が裁かれました。連合国がドイツを裁いた戦争裁判の20年後に、ドイツ人自らがドイツ人の戦争犯罪を裁いたのです。
 ハンナは法廷で自分の秘密を隠し通そうとするために噓の証言をし、主犯格に仕立て上げられ重い刑になります。ミヒャエルは裁判中にハンナの秘密に気づき、裁判長に話すかどうか迷いますが、結局は彼女のプライドを重んじ話すのをやめます。そして、彼女が服役中、ずっと本を朗読したカセットテープを刑務所に送り続けるのです。彼女の秘密とは非識字者だったのです。
 ハンナは刑務所でこのカセットテープを聞き独学で非識字を克服し、ホロコーストに関する本を集め読むことで自らの罪をつぐなおうとします。しかし、非常に悲しい結末を迎えます。ハンナは出所当日、自ら首を吊ったのでした。ハンナの遺言には銀行にあるお金をハンナが関わった事件の唯一の生存者である女性に、ミヒャエルから渡して欲しいというものでした。最後はミヒャエルがニューヨークへ渡り、その女性と会う場面です。
 ぼくはハンナの死と遺言について話した。「どうして私に?」「おそらくあなたが唯一の生存者だからでしょう」「そのお金で何をすればいいの?」「あなたが有意義だと思われることでしたら何でも」「それでハンナさんを許してやれとおっしゃるの?・・・このお金をホロコーストの犠牲者のために使ったりすれば、本当に彼女に許しを与えることになってしまい、私はそんなことはできないし、したくないの」
 その女性にとっては生涯許されない出来事なのです。ドイツの負の遺産がこの小説の大きな柱です。迫害された側も苦しむが、迫害に手を貸した側も苦しんでいる。決して誰も幸せになっていないという悲しい現状が痛々しいほど表されている大変重たい小説です。

お誕生日おめでとうございます

島会員、武島会員、土井会員

会員卓話「ロータリー財団について」 勝坂 会員