【第2774例会】新入会員卓話 土井会員(2022年8月18日例会)

会長時間

『二十四の瞳』 壺井栄
 今月は終戦記念日にちなんで「二十四の瞳」を紹介致します。この作品は昭和27年に発表され、2年後には映画化され大ヒットしました。課題図書にも選ばれていますし、多くの方は一度は読んだ事があるのではないでしょうか。しかし、改めて読んでみますと随分印象が異なります。初めて読んだ小学生の時は、自分と同じ子供達ばかりに目が行きましたが、今となっては主人公の大石先生ですら我が子より若い年齢です。だから改めて読み返すと、大石先生の素直さや可愛らしさに多々気づかされます。
 当時の貧しい日本では、幼い子供でも学校から帰れば、一人前の働き手として仕事をしなければなりませんでした。「この今日初めて一つの数から教え込まれようとしている小さな子供達が、学校から帰ればすぐに子守となり、麦つきを手伝わされ、網引きに行くというのだ・・・この瞳をどうして濁して良いものか」と大石先生が決意するシーンは、「がんばれ!ファイト!」と応援したくなります。
 前半は先生と12人の子供達のふれあいを描いた心暖まる物語なのですが、後半に入ると、物語は厳しい時代背景を感じさせる展開になってきます。満州事変、上海事変が立て続けに起こり、小さな島からも兵隊が送り出され、いよいよ戦争の時代へと突入していきます。そして、とうとう大石先生の教え子たちも戦争へ送り出される時が来ます。
 この物語が発表されたのは、まだ多くの人が敗戦の傷を抱えて生きていた昭和27年です。自分が「お国のために」と教え込んだ子供達が戦場へ送り出され命を落としていった。教師としてこの後悔、罪の意識はどれほどのものであったか、経験者でなければわからないことでしょう。
 戦後、子供達と大石先生が再会し、昔の写真を皆で眺めるラストシーンは、何度読み返しても目頭が熱くなります。戦争で盲目になった磯吉が吉次に言います。
 「目玉がないんじゃで、きっちん。それでもな、この写真は見えるんじゃ。な、ほら、真ん中のこれが先生じゃろ。その前にうらと竹一と仁太がならんどる。先生の右のこれがまあちゃんで、こっちが富士子じゃ。まっちゃんが左の小指を1本握り残して手を組んどる。それから・・・」
 磯吉は確信をもって、そのならんでいる級友の一人一人を人差し指で押さえて見せますが、それは少しずつずれた所を指していました。相槌のうてない吉次にかわって大石先生は答えます。
 「そう、そう、そうだわ、そうだわ」
 明るい声で答えている先生の頬を涙の筋が走りました。
 このずれた指が、私達に戦争の悲しさ、酷さを伝えてくれているのです。この本は子供向けの明るい物語だと思われがちですが、貧困と戦争という重たいテーマを扱った反戦小説であります。

新入会員卓話 しまなみ信用金庫 西条支店 支店長 土井 会員

自己紹介を兼ねてご挨拶いただきました。(内容については、個人情報を含むため、ホームページでは非公開としました。)