【第2772例会】会員卓話「健康と医薬品について」(2022年7月28日例会)

会長時間

『月と6ペンス』 サマセット・モーム
 毎月1冊、私の好きな小説を紹介したいと思います。「物語なんて読んだって何の役にも立たないじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、役に立たない事が生活にゆとりを生み出し、人生を心豊かなものにしてくれるのではないかと思います。
 イギリスの作家、サマセット・モームが1919年に発表した「月と6ペンス」はフランスの画家、ポール・ゴーギャンの生涯をモデルにして執筆された作品です。晩年に南太平洋タヒチに渡り、多くの作品を残したゴーギャンは1903年にマルキーズ諸島で亡くなっています。その1年後にモームはパリで暮らし始め、ゴーギャンを知る人々と出会い、タヒチにも訪れています。
 モームはゴーギャンのどこに創作意欲を掻き立てられたのでしょうか。果たして、芸術とは一人の人間が生涯を注ぎ込むに値するものなのか、この問いを「月と6ペンス」は私達に投げかけています。
 主人公ストリックランドは序盤、「善良で退屈で平凡」と描写されていますが、突如、仕事と妻子を捨て、家を出てパリで暮らし、奇人変人ぶりを発揮します。関係を持った友人の妻、ストルーブ夫人が自殺しても、全く罪悪感を感じないストリックランドはこう語ります。
 「愛などいらん。そんなものにかまける時間はない。愛は弱さだ。おれも男だから時々は女が欲しくなる。だが、欲望さえ満たされれば他の事ができるようになる・・・女は恋愛くらいしかできないから、ばかばかしいほど愛を大事にする。愛こそ人生だと、女は男に信じ込ませようとする。愛など人生において取るに足りん。欲望はわかる。正常で健全だ。だが愛は病だ。女は欲望のはけ口に過ぎん」
 ストリックランドはこれほど身も蓋もないほど人間失格の男です。しかし、彼がどこまで落ちぶれていくのか、そしてそれと引き換えにどんな絵を描くのか、興味の尽きない物語です。
 音楽家の山田耕筰の最初の妻、歌手永井郁子は元夫についてこう語っています。
 「残酷で浮気で破廉恥で、彼の人間性はゼロです」
 北大路魯山人でも、竹久夢二でも、谷崎潤一郎でも、みな人間性は最低レベルです。しかし、彼らには様々な人間性の欠点を差し引いても、有り余るほどの才能を持っており、その作品と名前は百年、二百年と後世に残っていくのです。
 ゴーギャンの絵は百年以上たった今でも、世界中の美術館に飾られ、世界中の人がその名前を知っています。彼の人間性など、そこには全く何の差しさわりもありません。そして、ゴーギャンをモデルとして書かれたこの「月と6ペンス」も、モームの名とともに世界中の人々に読み続けられる事でしょう。

会員卓話「健康と医療品について」 金好会員

 新型コロナウイルスより前の感染症(SARS、MERS等)から現在のオミクロン株BA5までの経緯などを説明いただき、現在爆発的に増えているコロナウイルスの現状や、対策等、金好会員が実際体験している事例について解説いただきました。